巻タリアンニュース 第31号


活躍するOB 1954年(昭和29年)卒業
棚橋かうさん
Artist Kou Tanahashi

モダン・うるし・アートとの出会い
漆絵画家
棚橋かう さん
郷里・分水町で過ごした子供の頃から父親に連れられて上野美術館や銀座の画廊などを度々訪れ、数多くの優品と出会う恵まれた環境下で育った。美術鑑賞を趣味として楽しんでいた父親は、自らも嗜む絵画・陶器・書や工芸品などの探究に、どんな遠方でもジャンルを問わず、幅広く足を運んで娘にも、芸術の世界の素晴らしさを肌で感じさせ鑑賞眼を伝授してくれた。やがて彼女自身も、作品制作に夢中になり、漆アートと出会ってからは、独自にその道を切り開き、鎌倉彫、陶器に新漆技法を合体させた作品を追求するに至った。30年近い創作経験を持ちながらも、今始まったばかりと初心を忘れない。

「知的・刺激的で芸術性の高い世界に没頭したい」子育ても一段落のある時期、棚橋かう(旧姓・解良)さんは出来る事なら万人向きでなく、人があまりやらない、少し違った事をやりたいとも思っていた。 女性を照準としたカルチャー教室が隆盛する初期の頃である。 当時、油彩画家として活躍していた、ゆさみどり(03年没)が合成うるしによる新技法を開発し、その普及に励んでおり渋谷の東急セミナーBEでモダン・うるし・アートの講座を開設。ここで彼女と出会い、初めて「合成うるし」の世界を知った。 本漆と違って、原料にカシューの樹液を使用した合成顔料でかぶれる心配はなく、それでいて出来映えは華やかである。

当初はクラフト、アクセサリーなどの小物から入り、やがては漆絵で50号の大作を制作。自らも講師として教室を開設し、自身は鎌倉彫や陶芸を加えた作品の制作に勤しんでいる。

盆・香合類は一般的な鎌倉彫の中では頻繁に目にする事が出来る。だがこの写真を「鎌倉彫のジャンル」で展示したら訪れた人達を驚愕させ、発想・デザイン・艶で圧倒されるに違いない。
写真右の花差し部分は陶器で焼き上げ、釉薬で偶然にもこの色に なったというが、計算しつくしてもこの偶然は生まれてこない。これを鎌倉彫と合体させ見事な創作漆アートの花器が完成した。
深み有る艶は棚橋作品の魅力のひとつ。
この表現が最も似合う作品群。

豊 熟 平成12年制作(F30)

普段何気ない日常の素材を漆絵技法で表現するとこうなるのかと思わず立ち止まってしまう。
どうだと言わんばかりの南瓜は、容赦なく堂々と中身を曝け出し、しかも豪快仔細な金色を交え漆絵の技法を堪能させてくれる。(写真右)遠慮がちに描いた他者の油彩作品などでは、とても太刀打ちの出来ない存在感がある。

「豊熟」は、京都展・美奏に出展される。
(平成19年1月19日〜21日 於・京都文化博物館)


15回目の挑戦で栄誉に輝いた受賞作品
よみがえる思い出
平成18年制作(F50)
全国規模の公募展として歴史のある「光陽展」は1952年に創設され、今年で54年目を迎えた。油彩・水彩・版画・コラージュなど多岐の分野で幅広く募っており、棚橋かうは漆絵を描き続け初回出品以来15年間連続で挑戦して来た。

写真左は、今年「多々羅賞」に輝いた作品である。仮想の世界にある蝶と彼岸花が現実へと時空展開する瞬間を表現した作品は贅を尽くした漆アート独特の深みと華麗さを実感できる。

棚橋かうは、ある夜、黄金の曼珠沙華と透明な蝶が交差する夢を見て、この絵を描くきっかけとなったという。これに幅のある帯状の素材を加えた事で、作品に動きを絡ませた、3次元の世界が描写されている。漆絵はキャンパスに厚みの有る合板を使用するが大枠になると重量となり作品制作に手間が掛かる。そこで高価であるが、比重0.3と軽く肌が美しい桐の木を砕き圧縮し、表面に黒色顔料の漆を塗る。これ自体が工芸品であり、作品に見えてしまう。この受賞作品は全国各地で巡回展示された。


二人の古希展 2006年9/30〜10/4

「暮らしにアートの温もりを求めて」と棚橋弘・かう夫妻が企画した「二人の古希展」は、文字どおり共に健康な古希を迎えられた喜びを称え、漆絵とこれまでに制作してきた数多くの陶芸作品・鎌倉彫やアクセサリー類を一堂に展示した、思い出となる個展となった。

壽泉堂画廊(大田区田園調布)には、友人・生徒や巻高同窓生らが多勢訪れ、モダン漆アートの技法などを熱心に質問、作品に魅了。棚橋かうさんとほぼ同時期に陶芸制作を始めたという夫の弘氏は、20年のキャリアはこれからですと謙遜しながら、懇切に来訪者の応対をし、自らの作品を説明しておられた。

鎌倉彫も多数展示された
来訪者は作品に見入りなかなか離れない。説明にも熱の入る棚橋かうさん(左)
棚橋弘氏(写真左端)は、笑顔で作品を一品づつ懇切丁寧に解説しゲストを優しく迎えてくれた。

(文中一部敬称略)
掲載した作品紹介は作者のモチーフをお聞きし、主宰者の視点で表現したものです。
各地の美術館で棚橋かうさんの作品を鑑賞され、漆絵技法の真髄をご堪能下さい。

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