天文コラム「星空のかなたに」
vol.1 春を告げるしし座

 しし座は、春を告げる星座である。3月の初旬、宵の東の空に、頭を上にしてまるで天にかけ昇って来るかのように勇ましく登場する。そして4月ともなれば、春の陽気を喜び、南の空にのんびりと横たわっている。 このように、星座にも時期によって様々な表情があり、見る人の目を楽しませてくれる。
しし座正座絵しし座星座絵
 しし座のもっとも特徴的なところは、「?」を裏返したような形に星が並ぶ頭の部分である。これは、「獅子の大鎌(おおがま)」と呼ばれ、西洋の草刈り鎌に似ているところからきている。
 ライオンの胸に白く輝く1等星は、「レグルス」という名前で、「小さな王」を意味する。それは、この星がちょうど、天球上での太陽の通り道である黄道上に位置するため、古くから王の星として重要視されたことを示すものだ。なお、名付け親は、地動説で有名なコペルニクスとされている。
 くるっと巻いた尻尾には、2等星の「デネボラ(獅子の尾)」が光っている。おとめ座の「スピカ」、うしかい座の「アークトゥルス」と共に「春の大三角」を形作る星で、春かすみであまり目立たない星座たちを見つけ出すための、一つの目印となっている。

「春の大三角」と「春の大曲線」および「春のダイヤモンド」
 ところで、実はこのライオンは、ギリシャ神話に登場する勇者ヘラクレスによって退治された、人食いライオンなのである。
 ヘラクレスは、エウリュステウス王より12の難業を命ぜられ、そのなかの第1番目が、ネメアの森に住むどう猛なライオンの退治だった。ヘラクレスはまず大弓を射て立ち向かうが、ライオンはびくともしなかった。そこで今度は、こん棒を振るってほら穴に追い込み、力いっぱい殴った後で、全身の力をふりしぼり、ライオンの首を両腕でギュウギュウと絞めつけた。そしてとうとう、さすがの化けライオンも息絶えてしまったのである。 ヘラクレスは、ライオンの皮をはいで持ち帰り、それをいつも肩にかけていたということである。
 続く第2の難題は、ヒドラ退治であった。ヒドラとは、「うみへび」と訳されているが、ギリシャ神話のなかに出てくる、アルゴスの沼地レルネに住む九つの頭を持つ怪物の蛇のことである。ヘラクレスは、やはり苦戦の末、このヒドラを退治するのだが、このときヒドラに加勢した化け蟹をも踏み殺したと伝えられている。
 それらの戦いはどれもすさまじく、後世にまで伝えられるようになった。そして、ヘラクレスはそうした偉業を称えられ、星座(ヘルクレス座)として天に祭られたのである。一方、退治されたライオンやヒドラ、蟹までもが、そのとき天に上げられ、しし座、うみへび座、かに座となったということである。
 うみへび座は、1等星こそないが、星座の長さという点では、これにまさるものはない。まわりにあまり明るい星が少ないせいか、「アル・ファルド(孤独なもの)」という名の2等星がよく目立つ星座である。また、かに座は、夜空が十分に暗く空気の澄んだ場所で、白くうすぼんやりとその甲羅のところに見える、「プレセペ散開星団(M44)」が有名である。なお、ヘルクレス座は、夏の星座として登場する。
Feb 2003.


1980年3月卒 天文部OB(前新潟県立自然科学館天文学芸員)
巻高校教諭 中沢 陽

E-mail:nakazawa.yoh@nifty.ne.jp
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テーマ曲:星空のかなたに(Copyright:中沢 陽 1995/Piano:大澤俊秀)
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