天文コラム「星空のかなたに」
vol.13 銀河鉄道の夜

 童話「銀河鉄道の夜」は宮澤賢治の最高傑作として挙げられ、またそれだけに奥の深い作品である。そのストーリーは、ジョバンニという主人公の少年が、夢のなかで銀河(天の川)を旅するというものである。真実と、彼独自の空想力に基づく星や銀河系の描写の美しさは、他に類をみないものである。

 銀河鉄道の旅は、はくちょう座から始まる。はくちょう座を形づくる星々は、ひと目でそれとわかる見事な十文字を描いており、「北十字」とも呼ばれている。白鳥のくちばしにあたる星は、アルビレオという名の二重星。トパーズ色の3等星とサファイア色の5等星で、全天で最も美しい二重星ともいわれる。物語では、この二重星が銀河の水の速さを測る「観測所」として紹介されている。

 列車は、はくちょう座からこと座、わし座へと進み、天の川をどんどん南下していく。そしてさそり座にさしかかる。首星アンタレスのことを、賢治はいつも「赤い目玉」と呼んでいた。アンタレスとは、赤い惑星である火星(アーレス)とその赤さや明るさで対抗するものという意味の名前(アンチ・アーレス)に由来する。実体は私たちから500光年のかなたにある、直径が太陽の200倍以上もある赤色超巨星である。物語の中では、この“赤く光る火”は、さそりが他の者の幸せために自分自身を燃やす炎として描かれている。

 列車はさらにさそり座からケンタウルス座を通り、終着駅・南十字座へと向かうのであった。ケンタウルス座と南十字座は南天の星座で、日本からはその全景を見ることはできない。

 こうして、北半球の十字架から南半球の十字架へという、大銀河旅行は終了するのだが、この物語のなかには、作者宮澤賢治の「本当の幸福」とは何かを追い求める姿があるのだ。

岩手山と、まきばの天文館(岩手県・小岩井農場にて)



白楊祭(文化の部)クラス展示(14R)
<宮澤賢治「銀河鉄道の夜」の世界展> から
Sept.2004


1980年3月卒 天文部OB(前新潟県立自然科学館天文学芸員)
巻高校教諭 中沢 陽

E-mail:nakazawa.yoh@nifty.ne.jp
HP(URL):http://member.nifty.ne.jp/nakazawa-yoh/index.html
テーマ曲:星空のかなたに(Copyright:中沢 陽 1995/Piano:大澤俊秀)
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巻高同窓会