天文コラム「星空のかなたに」
vol.15 おひつじ座

 おひつじ座は黄道12星座の第1番目の星座でありながら、目立って明るい星もなく、実際の星空のなかで探し出すには少し苦労する。アンドロメダ座の南にある小さな三角形がさんかく座で、そのまたすぐ南にもう一つこれとよく似た星の並びがある。こちらは、形がややくずれていて、この「へ」の字を裏返したような部分がおひつじ(牡羊)の頭部にあたり、体全体の姿はプレアデス星団(すばる)の近くまで広がっていると見当づけるしかない。
 ギリシャ神話によれば、この牡羊は空飛ぶ金毛の羊とされている。その昔、ギリシャのテッサリアの王にフリクススとヘルレという仲のよい兄妹がいて、二人は常に継母(ままはは)にいじめられていた。それを見かねた大神ゼウスは、伝令神ヘルメスに命じて、毛が金色に輝く牡羊を二人のもとにおくらせた。この牡羊が、二人を継母から助けるために背中に乗せて海を渡っていたところで、ヘルレは不運にも羊の背から落ちてしまい、ヨーロッパとアジアの境界をなす海に溺れてしまった。(この場所は今日のダルダネルス海峡である。)一方、フリクススは無事にコルキスに渡ることができたので、その土地の王アイエテスに金毛の羊を献上したという。
 こうして大活躍した羊は、天に上げられ「おひつじ座」となった。そして星座になってからも、海に落ちたヘルレを心配して振り返っているのだと言われている。
 おひつじ座が、小さくてあまり目立たない星座にもかかわらず古くから重要視されたのは、この星座が約2,000年前に春分点のある星座であったからである。春分点とは、天球上での太陽の通り道である「黄道」と、「天の赤道」との交点の一つ(もう一つは秋分点)であり、春分の時に太陽がある位置である。紀元前 150年頃活躍したギリシャの天文学者ヒッパルコスは、春分点を起点として黄道を12等分し、黄道12宮を設定した。星占いで、「何座生まれ」というのは、このような太陽の動きを使って、誕生日に太陽が何宮にあるかをいっている。しかし現在は、地球の首振り運動(歳差運動)のため、春分点が隣のうお座に移ってしまったため、星占いの星座誕生日区分と実際の太陽の位置とが、約1ヶ月ほどずれてしまっている。
秋の星座
Dec.2004


1980年3月卒 天文部OB(前新潟県立自然科学館天文学芸員)
巻高校教諭 中沢 陽

E-mail:nakazawa.yoh@nifty.ne.jp
HP(URL):http://homepage2.nifty.com/nakazawa-yoh/
テーマ曲:星空のかなたに(Copyright:中沢 陽 1995/Piano:大澤俊秀)
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