菜の花畠に入り日薄れ 見渡す山の端霞深し・・・
(高野辰之:朧月夜 より)
現代の日本ではあまり見かけなくなった春の田園風景である。俳句歳時記によれば、春の昼間の霧を霞(かすみ)と呼び、春の夜の霧を朧(おぼろ)と呼んで使い分けている。
ところで、春の西空で見る三日月の特徴は横に寝ているところだ。これに対して、半年後の秋の西が空で見る三日月は、縦に近くなっている。西洋には、「春は三日月のくぼんだところに水が溜まるので、霞がかかって朧月夜となるが、秋には三日月に水が溜まらないので、空はすっきりと澄みわたる」という意味のことわざが古くから伝わっているそうである。
このように三日月は、季節による見え方の違いも面白いが、「地球照(ちきゅうしょう)」と呼ばれる現象も興味深い。これは、三日月の欠けた部分が淡くぼんやり光っている現象で、地球からの反射光によるものだ。双眼鏡を使えば、はっきりとその中の模様まで見える。
月は日ごとにその形を変え、上弦(じょうげん)のころには地球照は見えなくなる。日没のころ南に見える上弦の月(右側が光っている半月)は、地形の影ができる欠けぎわのクレーターが見やすくなっている。それに対し、太陽が真正面から照らす満月のころは、クレーターの様子もわかりにくい。
菜の花や 月は東に 日は西に (与謝蕪村)
蕪村の詠んだ月は、言うまでもなく満月である。 |