夜空が十分暗く空気の澄んでいる場所で見る真夏の星空は、思わず蒸し暑さを忘れてしまうほど華やかだ。それは明るい星がたくさん輝き、天の川が一年中で一番明るく、北から南へ頭の上を流れているからである。
七夕伝説の舞台ともなった天の川は、古代の人々にとってまさに“天上を流れる川”であった。エジプトでは「天のナイル川」、インドでは「天のガンジス川」、中国では「銀漢」または「銀河」と呼ばれた。そして、それが星の大集団であると最初に見破ったのはガリレオであった。望遠鏡の威力である。
天の川の中ほどに、大きな十字の星の並びが見えている。これが「はくちょう座」で、南に向かって飛ぶ白鳥の姿をしている。白鳥の尾のところに輝く一等星は「デネブ」という名だ。天の川のほとりには、「こと座」の「ベガ」、そして対岸には「わし座」の「アルタイル」が輝いている。この三つの星を結んでできる大きな三角形を「夏の大三角」という。ベガとアルタイルは七夕の「織り姫」と「彦星」である。
天の川をずっと南に行けば、Sの字の形に星が並ぶ「さそり座」がある。さそりの心臓には赤い星「アンタレス」が輝いている。
さそり座の東は「いて座」。さそりの見張り番である。あまり明るい星はないが、ひしゃくの形をした六つの星の並びが目印で、これを、北の空に見える「北斗七星」に対して「南斗六星」、あるいは、「ミルクディッパー」(ミルクをすくうもの)と呼んでいる。こちらは、西洋で天の川を「ミルキーウェイ」(ミルクの道)と言うことに対応している。
いて座は、私たちの銀河系の中心方向にあたるため、この付近の天の川はたいへん変化に富み、最も美しく見えるところなのだ。私たちが肉眼で見ることのできる最も深遠な宇宙の光景である。
荒海や 佐渡によこたふ 天の河 (芭蕉)
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