この8月11日(木)は、旧暦七月七日にあたり旧七夕である。このころ、七夕伝説の舞台ともなった天の川は、宵空に北東から天頂をとおり、南の地平線へとアーチを描く。おりひめ(こと座べガ)とひこぼし(わし座アルタイル)はその両岸に白く光り輝いている。そして上弦の月が、南天の天の川の岸辺に低くかかり、天の川を渡る舟にも、また二人(星)の足元を照らす明かりにも見立てられ、なんとも風流だ。
もともと七夕祭りは、伝説の主役である織女星(おりひめ)と牽牛星(ひこぼし)を祭った乞巧奠(きこうでん)という中国の行事が日本に渡り、それが公家を中心とした技芸上達を祈る七夕の風習となった。京都・冷泉家では、今現在も旧暦の七月七日に乞巧奠の儀式が古式ゆかしく執り行われる。
しかし、乞巧奠が伝わる以前から日本には棚機女(たなばたつめ)という、季節の節目にけがれを祓(はら)う「禊ぎ(みそぎ)」の行事があった。日本の七夕は、これら二つが習合したものであり、「タナバタ」の読みは、棚機からきているという。また、地方の農村にみる七夕祭りは、すぐ後の大型年中行事である盂蘭盆(お盆)の準備という意味合いが強く、そのための禊ぎという説もある。
現代の七夕祭りといえば、仙台七夕祭りが豪華な七夕飾りで有名だ。新潟県内でも、村上市の七夕祭りが16、17日に行われる。江戸時代から伝承されている七夕行事という。およそ19の町内ごとに、伊勢堂という堂の上に万灯風のぼんぼりをいくつも積み重ね飾られた山車を、子どもから若者が引き回す。しばしば山車の進行を止め、その町内それぞれの特徴を備え、古風そのままに伝える獅子舞を舞う。この獅子舞は、五穀豊穣(ほうじょう)、商売繁盛、病気災難除けなど、さまざまな祈願がこめられている。頭上高く輝く二星のもと、それぞれの万灯の明かりに浮かび上がる獅子舞の光景は、実に幻想的だ。
天の川は天上を流れる河ではなく、実際は無数の微光星の集まりである。これは、われわれの太陽系を含む数千億の星々が、「銀河系」という円盤状の集団をなし、その中から見通したときに帯状に見えるのだと科学的に説明されるが、この夏の夜空を仰ぐと、なぜか私は、七夕伝説のような夢の世界へと導かれてしまう。
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