|
星の伝説と聞いてすぐに思い浮かぶのはやはり七夕であろう。天の川の両岸に光輝く「ひこぼし」と「おりひめ」が1年に1度、7月7日の夜だけ逢うことを許されるのだ。なんともロマンチックな話である。
万葉の昔、七夕伝説が中国から日本に伝えられた時、爆発的な人気を呼んだ。万葉集にこんな歌がある。
このゆふべ降り来る雨は彦星の 早漕ぐ船の櫂の散りかも(万葉集・巻第十)
この天上の恋物語がいかに強く万葉人の心を打ったことであろうか。
最もよく知られている七夕伝説は、こんなお話だ。
働き者の織姫と彦星は、結婚すると生活の楽しさにおぼれ、仕事を怠けるようになる。それに困惑した織姫の父が彼女を連れ帰り、1年に1度だけ彦星と逢うことを許したという。
そのほか七夕伝説には、天女と人間の男との恋物語もある。こちらの方は、日本各地に伝わる「羽衣伝説」と類似点が多く、興味深い。
7月7日の夜、星を祭る行事は奈良時代宮中で行われていたが、江戸時代には民間にも広がった。にぎやかな笹飾りが一般庶民の間で盛んになったのは、江戸時代の末である。
ところが明治維新以後、七夕祭りの伝説もたちまち薄れてしまったという。特に明治5年の改暦により、新暦の7月7日はまだ梅雨中となり、晴れたとしても、宵空の天の川とその両岸の二つの星は東の空にまだ低いのである。やはり、七夕は旧暦七月七日の行事なのだ。
現代の私たちは、、織姫(こと座ベガ)と彦星(わし座アルタイル)とが、光の速さで走ったとしても16年もかかるほど離れていることを知ってはいるが、7月7日の夜は晴天を祈り、二人が無事逢えることを願わずにはいられない |