天文コラム「星空のかなたに」
vol.7 火星大接近

今年(2003年)の秋は、南の空で明るい星が赤々と輝いている。地球のすぐ外側を回る惑星、火星である。昔から、火星の暗赤色は戦争の火や血を連想させるので、不吉の星とされた。ギリシャでは戦いの神「アーレス」の星とされ、ローマでも同じく「マース」の名前が付けられた。この表面の色は、火星の土壌中に含まれる酸化鉄のためといわれている。

もともと火星には地球と同じように四季があり、砂嵐(あらし)が起こったり、夏には極冠と呼ばれる極地方の白い部分(成分は氷やドライアイス)が縮小したりして、実に多彩な変化を見せることが知られていた。その表面の微妙な模様から、火星人の存在を信じて疑わない人がいた。その名は、パーシバル・ローウェル。彼は、地球人を越える知能を持つ火星人が、火星の表面全体に運河を張り巡らし、高度な文明を築き上げていると真剣に考えた。当時、彼の考えには賛否両論があったが、結論が出ないまま、彼は1916年に亡くなってしまう。まさに一生を火星に捧(ささ)げた人だった。

1976年7月、この問題に一応の決着がつく日がきた。火星探査機バイキング1号の着陸成功である。着陸地点の風景は、地球の砂漠地帯のそれとよく似てはいたが、そのあまりにも過酷な自然環境の下では、高等生物はおろか、生命の存在すら残念ながら確認できなかった。

しかし、太陽系内の天体のなかでは、火星が最も地球に近い環境であることに変わりはない。いつの日か、必ずや人類は火星に移住を始めるであろう。その時、初めて「火星人」が誕生するのだ。
photo
写真:火星(中央の赤い星)と秋の星座(やぎ座、みずがめ座)

<県立自然科学館プラネタリウムにて>

Aug 2003.


1980年3月卒 天文部OB(前新潟県立自然科学館天文学芸員)
巻高校教諭 中沢 陽

E-mail:nakazawa.yoh@nifty.ne.jp
HP(URL):http://member.nifty.ne.jp/nakazawa-yoh/index.html
テーマ曲:星空のかなたに(Copyright:中沢 陽 1995/Piano:大澤俊秀)
インデックスへ
巻高同窓会