天文コラム「星空のかなたに」
vol.8 中秋の名月

旧暦八月十五日は中秋の名月である。今宵、月見の宴を催す方もいられるだろう。だんごを作り、ススキを縁側に供えて月を祭るのだ。またそのほかに、収穫したばかりの里芋を供えることから「芋名月」とも呼ぶ。

中国から伝来したこの風習は、日本では平安時代(909年)に醍醐天皇が宮中で行ったのが最初で、その後、江戸時代に広く庶民の間にも普及し現在のような形となった。

また月見には、旧暦九月十三日の月を愛でる「後の月」という風習もあり、同じ秋にもう一度、満月ではなく少し欠けた月を観賞するのだ。それほど秋の月は澄み切った空に鮮やかで美しい姿を見せてくれるのである。

想像力豊かな古代の人々は、決して手の届くことのない天上界に輝く月に、実に神秘的かつ幻想的な思いを抱いていた。満月の模様にまつわる伝説も世界各地で残されており、日本ではこれをウサギが餅をついている姿であると考えた。また有名な「竹取物語」の中では、天上人であるかぐや姫が月の都へ帰る姿をとおし、俗世間に汚されない清明なるものに対する人々の永遠のあこがれを描いた。

昔の人々が月にとりわけ興味を抱いた理由の一つには、当時の暦が月の運行を基に作られていたということだ。その月の三日には三日月が、十五夜には満月が出ているのである。つまり月の形を見れば、その日が何日であるかおよその見当がつき、月の満ち欠けが生活と深く結びついていた。さらに夜の明かりがなかった時代、月は唯一の照明であり、人々は月の出が待ち遠しかったに違いない。立待ち月(十七夜)や居待ち月(十八夜)、寝待ち月(十九夜)など、その豊かな表現にも納得する。

現代の私たちは、月にはウサギが住むどころか、水も空気もないことを知ってはいるが、古来、月をこよなく愛した日本人の心情や美意識、そして大自然の営みへの畏敬と感謝の念をこれからも大切にしたいものである。

澄みわたる 月光浴びし をみなかな
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写真:澄み切った空に鮮やかな姿を見せる満月


写真:月光とビッグスワン(県立自然科学館屋上にて撮影)
Sep 2003.


1980年3月卒 天文部OB(前新潟県立自然科学館天文学芸員)
巻高校教諭 中沢 陽

E-mail:nakazawa.yoh@nifty.ne.jp
HP(URL):http://member.nifty.ne.jp/nakazawa-yoh/index.html
テーマ曲:星空のかなたに(Copyright:中沢 陽 1995/Piano:大澤俊秀)
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